自作の道は手加工に始まりフライス盤で終わる。
フライス盤。
このコンテンツを覗きにいらっしゃる方であれば、工作が好きかもしくは興味があるってことですよね。金属加工はなかなか手が出しにくく、大抵は
・弓ノコ
・組みやすり
・ハンドドリル
から始まって、ちょっと病が深くなると(笑)、
・ボール盤
・万力
・ディスクグラインダ
あたりがそろい始めます。ここまで来るともう止まりません。
・ベルトサンダー
・バンドソー
など、だんだん機械が増えてきて最後に手を出すのが
・旋盤
・フライス盤
というわけです。そうそう、なんてニヤニヤしながら頷いている方もいらっしゃるのでは?
旋盤、フライス盤、ボール盤の比較
フライス盤。
据え付けられた材料に対して「溝切り」「座繰り・えぐり」「平面加工」を行う機械です。
旋盤やボール盤との違いは以下となります。
旋盤 | ボール盤 | フライス盤 | |
---|---|---|---|
主な用途 | 円筒状の加工 | 穴あけ、研磨 | 平面の加工 |
使用する刃物 | バイト、ドリル(芯押し台で使用) | ドリル、フラップホイール等 | エンドミル、ドリル、フライカッター等 |
刃物の動き | 2軸。左右前後のみに「精密に」動く | 1軸。上下に「大きく」動く | 3軸、左右前後上下に「精密に」動く |
材料の動き | 高速回転する | 固定されている | 固定され、大抵2軸に動く |
各軸に対して求められる精度(異論は認める) | 0.02mmレベル | 0.5mmレベル | 0.02mmレベル |
微妙に近いようでやはり異なる動きをします。
特にボール盤とフライス盤は形は一見にているものの、上下の1軸にしか動かないボール盤と比較して、左右前後上下3軸すべて稼働するフライス盤は求められる剛性が異なります。
恐らくほとんどの方が一度は「ボール盤改フライス」を想像すると思いますが、それは難しいのです。そうとう剛性の高いボール盤(本格的なものは高価です)を使用しても、安価なフライス並みの性能すら出せません。
また、ボール盤の特徴として「刃物の動き」が「上下に「大きく」動く」ことが上げられます。対してフライス盤は上下にも動きますが、「精密に」動きます。何が言いたいのかと言えば、ボール盤で穴を10個開けるのは容易ですが、フライス盤で同じことをするのは(大抵のフライス盤についている手動上下機構を使ったとしても)メンドクサイのです。
やはり、フライス盤を購入される多くの方が「フライス盤があればボール盤はいらないんじゃない?」と考えるのですが、ボール盤は別に用意しておいた方が捗ります。
更にいうと、A軸(別途説明します)を用意すれば旋盤もいらないのでは?と思われる方もいらっしゃるでしょう。実際にそのように加工している方も少なくないのですが、やはり生産性が段違いです。
ちなみに「フライス盤」は、英語では「Milling machine」とか、単純に「Mill」といいます。「Flice」じゃないんですね。平面加工なので「薄く切る」という意味での「スライス」がなまって「フライス」になったとか。
おいおいなまりすぎちゃうんかい、と。
という感じでしょうか。
フライス盤を買う前の注意点・考慮点
フライス盤を買う前に。
フライス盤が欲しい!と思う方は、以下のチェックをしてみましょう。筆者が独断と偏見で書きました。なんでこんなことを書くかというと、やはりフライス盤っていろいろな意味で敷居が高いんです。ずいぶん安くなったとはいえかなりの投資が必要ですから(インフラの拡充も含め)、一度冷静に自分がフライスを買うべきかよく考えましょう。
まあ、よく考えてどーのこーのなるくらいなら、こんなサイトは見ないのでしょうケド(笑
手作業でアルミや鉄を切ったり穴開けたりした経験が、十分にありますか?
これ、大切です。どんな金属がどれくらい硬くて、どれくらい刃物を食い込ませてどれくらいの力を掛ければどれくらい切れて、どれくらい熱を持つのかを「ある程度は」体で覚えている必要があります。
フライスは動力機械ですから、電源を入れてハンドルを回せばどのとおりにガンガン動いちゃいます。どのくらいの速さでハンドルを回すかを「手ごたえ」で判断するのは難しいのです。
作りたいものは決まっていますか?
たいていの指南書には「できるだけ大きくて重いものを買いましょう」なんて書いてあります。でも、フライスの大きいの(それでも業務用としては「小さい」部類です)は余裕で1トンを超えます。100kgなんてミニ旋盤、という世界ですから「できるだけ」が「できねーよ」なのですね。
まあ、世にはフライス盤を置くためにガレージを建ててしまう強者も少なくないのですが・・・。
将来も含め、自分が作りたいものを検討してそのサイズを頭に入れておきましょう。「無駄に」大きいものを買わないために。
旋盤は持っていますか?
これは意見が分かれると思います。でも、筆者はフライスの前に旋盤を購入することをお勧めします。
旋盤があれば大抵のものが作れます。もう少し言えば板材を弓のこで切り、ボール盤で穴を開け、旋盤で切り出したカラーを組み合わせれば大抵のものはできてしまいます。また、旋盤を使いこなすことで金属加工のツボを「体で覚える」ことができるんです。
さあ、この3つのポイントをよく考えてみてください。それでもやっぱりフライス欲しいですか?
そうですか、欲しいですか(笑
フライス盤を購入する前の検討事項
フライス盤は敷居が高いんです、と書きました。
なぜでしょう?いろいろ大変なんですよフライス・・・。ここでは、フライス盤を買う前に検討しておく必要があることを記述します。
どこにフライスを置くか、を検討しなくてはなりません。
とにかく切粉(キリコ、と呼びます)が大量に出ます!金属加工とは成果物を生産する作業なのか、切粉を生産する作業なのか深く深く悩んでしまうくらい、大量の切粉がでます。それだけならばまだよいのですが、フライス盤の切り粉は旋盤、ボール盤の切粉と異なり「細かくて鋭い」んです。
旋盤 | ボール盤 | フライス盤 | |
---|---|---|---|
切粉 | 細長くつながる | 細長くつながる | 細かく鋭い |
切粉画像 | |||
掃除の苦労 | たいへん | らく | ものすごくたいへん |
ですから、「置き場所があるぜ」ではなく、排出される切粉をどのように溜めて、どのように掃除するかまで考えておく必要があります。一番いいのはコンクリートの土間を持つ離れ、ガレージを持つことです。次にいいのは何とか奥方を説得して自分の部屋を確保し、その部屋を土足OKにしちゃうことです(筆者はこのケース)。なんとか許容できるのは、部屋の片隅に工作スペースを用意して床に木枠を取り付け、切粉が散らばらない工夫をすることです。とにかく
「普通に掃除機掛ければいいんでしょ?」
ではないことは、ご理解ください。・・・私は何を力説しているのだろう・・・
備品をどこにおくか、を検討しなくてはなりません。
とにかくフライスは備品が多いんです。ざっと考えただけでも
付属パーツ | 抑え器具一式(Tナット、ボルト)、コレット一式、ドリルチャック・・・ |
---|---|
刃物 | エンドミル一式、ドリル一式、フライカッター、メタルソー、ボーリングヘッド・・・ |
周辺ツール | ノギス・マイクロメーター等の計測器具、スパナ・レンチ等の一般工具、バイス、バンドソーなどの材料切断機・・・ |
くらいあります。いや、別にこれらすべてを初めからそろえる必要なんてありません。でも、将来的にこんな大所帯になっちゃうんです。特にツール類はさっと手を伸ばしてそこにないと生産性(とモチベーション、やる気ともいう)が格段に落ちます。なんといってもエンドミル付け替えだけでもレンチ2種とピンスパナを使う必要があるのです。筆者は当初ツール類は作業机の引き出しに入れていましたがあまりに使いにくく、ついには工具掛けを自作してしまいました。
これはヒットです、お勧めです。
切断機をどこにおくか、を検討しなくてはなりません。
先の「周辺ツール」にも書きましたが、フライスを使う上で切断機は必須です。
棒状のものしか使わない旋盤と違って、フライスの加工対象は板だったり塊だったりします。これ、到底「弓のこ」で切断できるシロモノではないんです!10mmの2017(いわゆるジュラルミン)なんて、弓のこで切ったら10cm切るのに何時間掛かるやら・・・力尽きてしまいフライス加工どころではありません。比較的安価な高速カッターを考えますが、これを使うとこうなります・・・
火花が少ないといわれる「チップソー」でこのありさま。これを部屋でやるなんて・・・私やりましたが。で、これも意外と切れません。
もう、こうなったらバンドソーを買うしかないんです。これを置くスペースも考えておきましょう・・・。
フライスの楽しみ方
とまあ、かなり(受け取り方によっては)ネガティブなことを書かせて頂きましたが、やはり
フライス盤は自作野郎の最終兵器
なのです。
こいつを「持っている」と「持っていない」では、「できること」に大きな差が生まれます。
使いこなすことはとても難しいですし、奥が深いです。そのため、フライス加工を生涯の趣味として楽しまれている方が多くいらっしゃるわけです。
- フライス盤そのものを使いこなすことが楽しくなっちゃう方。
- 私のように、バイクや車の部品を作るために所有する方。
- ライブスチーム(実働するミニSL)を作るために所有する方。
- フライス盤コレクターとなって、名機を集めてレストアすることが趣味になっている方。
- CNC化して造形を楽しんでいる方。
たくさんの楽しみ方があります。ぜひその扉を開けて、一緒に楽しみましょう!
お待ちしております!