穴あけ加工
旋盤は円筒形のものしか削ることができません。
しかし、周囲を見回すと多くの機械、道具、工芸品がいわゆる「円筒」でできていることがわかります。機械部品を例にとれば
- ローラー
- スキマ調整用のスペーサー、カラー
- 支柱類
- エンジンのバルブ、ピストン
- 各種ピン
などがそれに当たります。これらは手動、自動の差はあれど旋盤で加工されています。そしてその部品の多くには
- センター穴
があけられていることに気付くと思います。
そう、旋盤は円筒形部品の
極めて正確に中央に
長い穴でも曲がらずに
開けることができるのです。
この項では、比較的低剛性、かつ非力なマイクロ旋盤での穴あけ加工にチャレンジします。
基本はバッチリ押さえよう!
穴あけのトラブル
旋盤を使用すれば、どうやっても正確で美しい穴を開けられる・・・というわけではありません。
材料を回し、ドリルを固定することで「芯出し効果」が発生し、比較的ドリルは勝手にセンターに落ち着くのですが、やはり失敗するチャンスは多くあります。
特にミニ旋盤における穴あけの失敗例とその原因を纏めます。
失敗例 | 現象 | 理由 |
---|---|---|
材料の中心に穴が開かない | 穴あけスタートポイントがセンターからずれている |
|
穴が曲がる | 材料が正確に固定されておらず、すりこぎ運動をしている |
|
穴の内壁が荒れる | ドリルがビビっている |
|
殆どの場合、これらの原因が複合で発生し、結果がガタガタな穴が開いてしまうのです。
が、しょせん穴ですから見えないのでエイッとそのまま使ったり・・・それではレベルは上がりません。
原因と対策
ではそれぞれ見て行きましょう。
端面(切断面)が荒れており、ドリルが逃げる
これは簡単ですね。バンドソーで切りっぱなしの状態で「センタードリル開け」(材料の固定の「センタードリルで中心穴を開けます」で説明しました)をする前に、バイトで端面をさらっておけば解決です。
センター穴が中心にあけられていない
端面をバイトでさらって平面を出しておけばそうそうセンター穴がずれることはありません。が、作業上の都合で端面をさらえない場合などは工夫が必要です。これも(材料の固定の「振れ取りのテクニック」で説明しましたが、材料の芯出しの要領で木片やジュラコン片を刃物台に掴み、材料を軽く横から押すことで材料のブレを取ります。センタードリルなど短くて剛性の高いドリルを使用していれば、これだけでビシッとセンターにセンター穴を開けることができるのです。
センター穴が浅い
センタードリルを使用してセンター穴を開けたのちに、10mm程度の大径(マイクロ旋盤としては)ドリルを使用する場合、しっかりとセンタードリルを沈ませて深めの穴を開けておく必要があります。大径ドリルはチゼルポイントも大きいので、先にドリルの刃の部分をセンター穴の角に食い込ませておく必要があるからです。
ドリルの剛性が負けてたわんでいる
穴あけスタートポイントがずれているにも関わらずそのまま作業を継続した
さあ、ここからが本題です。
ツイストドリル(いわゆる普通のドリルですね)はその形状から(意外なことですが)ツール剛性は低いのです。旋盤の強力なトルクにより、容易にぐねぐねとたわみます。とにかくドリルは切り出しがキモ、ここをずらしてはいけないのです。そしてたいていの場合、どんなにセンター穴がびしっと開いていてもなぜか(笑)ドリルはぐねぐねとたわみ始めます。
たわむと「大切な切り出し」がずれます。ここがずれるとよじれるドリルをそのままよじれるままに掘り込むしかありません、結果穴は曲り内壁は荒れ・・・となるのです。
対策は容易です、「振れ取りのテクニック」をドリルに対して行えばいいのです。
ここでは木片を刃物台に加え、18mmのドリル(テーパードリルです)の側面を押しています。材料はSUS304の22mm丸棒。センタードリル加工後に10mmのドリルで芯穴を開けてあります。快削とはいえ、18mmの大径ドリルを全くぶれさせることなく、穴あけを成功させることができるのです。
潤滑不足
潤滑を行うと内壁の荒れがある程度解消されます。いろいろ試しましたが、タッピングペーストがよろしいようです。(当然ですが)タッピングにも使えますしね。
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はっきり言おう。一生使いきれない。これと同じものを13年前に筆者も購入しましたが、まったく減りません・・・。
下穴が大きすぎる
意外とコレもあります。例えば加工対象物が
- 2017
- 砲金
- 鋳鉄
等の場合、10mmのドリルを使用する際の下穴は4mm程度で十分です。よく4mm→6mm→8mm→10mmなどど細かくドリルサイズを上げる方がいらっしゃいますが、逆に食いつく刃先の長さが小さくなり推進力が生まれず(もしくはちょっとしたきっかけでアンバランスになり)かえって不安定になります。
個人的経験則ですが、下穴はドリル径の 30~50% 程度が最も安定しているのでは、と感じます。
切削例
前項の対策を行うと、
- 旋盤はC3系(FL350E、駆動系は無改造)を使用して
- SUS304の22mm丸棒というマイクロ旋盤としては難加工材料に
- 18mmというこれもマイクロ旋盤としては大径ドリルを使用した
状態でも安定した切削が可能となります。こんな感じ。
・・・まあ、騒音は酷いんですけどね。
応用編
応用編です。
材料は砲金です。これに18mmの穴を開けます。
- 長さ160mm
- 直径36mm
とマイクロ旋盤としてはかなり大きく重い材料です。さらに悪いことに、材料センターにすでに13mm程度の穴が開いているのですがこれがセンターからずれています。
ですから、この既存穴をセンター穴として使うと
穴あけスタートポイントがずれているにも関わらずそのまま作業を継続した
ことになり、ドリルはその既存穴に引っ張られて穴がガタガタになるのは目に見えています。
そこで、このようなセッティングをしました。
材料は材料の固定の「振れ取りのテクニック」のとおりには刃物台を使用して横から支えます。
これで材料の固定はOKです。
刃物台が2つあれば同じ方法でドリルも支えられるのですが(そういう旋盤もあるみたいです)FL350Eには残念ながら刃物台が1つしかないので、固定振れ止めを使用してドリルを支えます。つまり
- 内径18mmの穴があいたコマを作り
- それを固定振れ止めで掴み
- ドリルの先端、材料にできるだけ近い部分で固定する
ことで、ドリルの振れを抑え込みました。
材料とドリル、双方をきっちり抑え込んだことで実に快適に、かつ精密な切削ができた、という事例のお話です。
まとめ
いかがでしょうか。
たかが穴あけ、と言いながらそれなりのノウハウとコツがあることがお分かり頂けたかと思います。
なぜ外丸削りの前に「穴あけ加工」を紹介したかというと、
からなのです。
芯穴が正確に開いていなければ、どんなに注意深く外丸削りを行ってももうその切削物の精度はガタガタです。
機械加工の精度は積み重ね、加工を重ねるごとに外れていくことはあっても回復することはありません。
旋盤加工の「初めの一歩」である「穴あけ加工」こそが、その精度のカギを握っているのです。