趣味の3Dプリンタ 熱溶解積層方式3Dプリンタの構造を詳しく見てみよう(LABISTS ET4)
まだ見たことも触ったこともない3Dプリンタ。
購入にはちょっと勇気がいるな、と思う未経験者・初心者さん向けにその構造を詳しく紹介します。筆者が所有しているET4をサンプルにその各部を見ていきましょう。
ET4は「趣味の3Dプリンタ 貴方にピッタリの選び方(熱溶解積層方式)」で紹介した
- 格安3Dプリンタ(1万円前後)
- 標準3Dプリンタ(3万円前後)
- 高級3Dプリンタ(5万円以上)
のなかで、標準3Dプリンタ(3万円前後)に属するマシンです。値段も2万円台(結構変動します、安い時は2万2千円台の時もありました)と手を出しやすく、また
- タッチスクリーンパネル
- 自動レベリング機能
- フィラメント切れ検出機能
- 停電印刷継続機能
- ヒートベッド
といった便利機能がすべて付属している、とっても「一般的」「筆者一押しでお勧め」の3Dプリンタです。
ですが、あくまでも標準的なつくりをしているため、この構造をご理解頂ければどんなの熱溶解積層方式3Dプリンタを購入したとしても、基礎知識としては役に立つのかなと思います。
敵(じゃないね)を知り己を知れば百戦危うからず。
ぜひこのページで予習をしておいてください。
全体像
正面から
これが「門型の標準3Dプリンタ」、LABISTS ET4を正面から見たところです。背景がごちゃごちゃで見にくいですね、ゴメンナサイ。
これは印刷寸法が縦横それぞれ20cmを超えるスペックを持っていますので筐体全体としてはそこそこ大柄、奥行き45cm、幅35cm、高さ50cm程度。
今は撮影のために保管場所から引っ張り出してきましたが、左に転がっているフィラメントのリールを本体上部に装着すると、さらに30cmくらいの高さが必要になります。とはいえCNCフライス盤のように本体が鉄の塊ではないため、重量も7kg程度。軽くはありませんが普通に持って移動できるくらいの重量です。
鉄の塊で重いほど偉いとされるフライス盤や旋盤のように置き場所をまず確保する、といった大げさな準備の必要はありません。
では、下側からご説明いたします。
本体
本体は基盤等の格納と、Y軸の動作を担当します。
本体は薄いボックス形状をしており、この中に基盤が収められています。手前右側にはタッチパネルが見えます。電源ON-FF以外のすべての操作(フィラメントのセット、機械の予熱、印刷の実行等)はこのタッチパネルから行うことができます。
電源ON-OFFスイッチ、そして切削・・・じゃないや、印刷データを取り込むためのマイクロSDメモリの差込口は本体ボックスの左側手前に準備されています。
これ、本体ボックス前面に配置してくれればいいのに・・・。マイクロSDカードは「裏面を上」で挿入します(なぜだ)。Type-BのUSBコネクタもあります、これで恐らくピアtoピアでパソコンと接続できるような気がしますが試したことがありません(すみません)。
本体ボックス中央縦に走っているレールがY軸(前後)の駆動レール。ローラーガイドの簡素なものですが、精度は十分です。
その上の正方形の座面がベッド。このベッドには電熱線が仕込まれており、3Dプリントを行う前に60度くらいの温度で熱しておくことができます。この予熱を行うことで、第一層目プリント時の食いつきをコントロールすることができます。
門型フレーム
門型フレームはZ軸の動作を担当します。
本体上部には門型、つまり逆U型のフレームが見えます。このフレームの左右がZ軸(上下)の駆動レールを兼ねています。ちなみにZ軸の動作を担当するステッピングモーター、台形ねじは左側にまとめられています(右側は単なるローラーガイドのみ)。
プリンタヘッドユニット
プリンタヘッドユニットはX軸の動作と、フィラメントの印刷を担当します。3Dプリンタの心臓部です。
門型のフレームに左右2組のローラーガイドで組付けられている緑色のユニットがX軸(左右)の動作を受け持つX軸駆動機構。その駆動機構の右手前にある黒いボックスがヘッドユニット。ここから熱せられたフィラメントが押し出され、3Dプリントを行います。
ちなみにX軸、Y軸はタイミングベルト(歯のようなデコボコの付いたノンスリップゴムベルト)で駆動されます。Z軸のみ台形ねじを使用しています。X軸、Y軸はとても軽く(フライス盤を想像すると驚くほど軽い)、ベッドを手で前後左右に容易に動かすことができます。
プリンタヘッドを手で動かすときには必ず3Dプリンタの電源を切ってください。強制的にステッピングモーターが回されるため逆方向の電流が発生します。
この時(電源を切っているのに)タッチパネルが光るくらいの電流が流れるため、故障を防ぐために必ず3Dプリンタの電源を切るようにしましょう。
対してZ軸は台形ねじであるため、プリンタヘッドユニットを手で動かしても全く上下してくれません。そのため、私は左上に見える白い手回しハンドルを装着しています。このハンドルもこの3DプリンタET4で印刷しています。
横から
90度回して横から見てみましょう。
前からは見えなかったZ軸を駆動する台形ねじが奥側に見えます。複数のコード状のものが見えますが、ベッドにヒート用の電源を供給する電源ハーネスであったり、ヘッドへ信号を伝える信号ハーネスであったり、またはフィラメントを供給するパイプだったりします。ちょっとメカメカしくてびっくりしますが、それほどの本数があるわけではありません。
この角度からだとZ軸用のローラーガイドがよく見えます。非常にシンプルなつくりです。レールにゴミなどがつかないように注意するだけでスムースな動作が実現できます。
フライス盤のアリ溝調整、大変ですもんね・・・。
全体像のイメージは湧きましたでしょうか。
プリンタヘッドユニット
プリンタヘッドユニットをもう少し細かく見ていきます。
黒い四角がヘッドユニット。この中に
- 白いチューブを経由して押し込まれた(押し込む機構は別のところにあります)フィラメントを、熱して細いノズルから吐き出す仕組み
- ヘッドとベッドの間隔を検知するセンサー(黒いコードが繋がっている円柱)とインジケータランプ
- 印刷したフィラメントを冷やすファン(全面の円形のスリットの奥)
- X軸の移動を担当するローラーガイドのローラー(上部に2つ、下部に1つ)
が組み込まれています。
下から見てみましょう。
金色の真鍮でできた逆円錐形のものが「ノズル」。ここから熱せられたフィラメントがぐにーっと排出されます。このノズルは通常0.4mmですが、0.2mmから1.0mm程度に変更することができます。まあほどんど交換する必要はないです。
左の薄緑の円柱が、先に紹介したヘッドとベッドの間隔を検知する「センサー部」。印刷時にこのセンサーが仕事をしてくれて、第一層目の印刷高さを制御します。ただし結構狂います。右側にもフィラメントを冷やすファンが見えます。下につながってる台形上の箱が、冷却風を導きます。
また、プリンタヘッド背面、ローラーガイドのレールの下側にタイミングベルト(歯のような突起があり、スリップしないベルト)があるのがわかりますでしょうか。このタイミングベルトが左右に動くことでヘッドを動かします。
こんどは背面から。
X軸のローラーガイドを上下からがっちりとローラーで挟んでいることがわかります。
ちなみにこのローラー、どのようにクリアランスをコントロールしているのかとちょっとばらしてみたら・・・
ローラーのカラーが偏芯・・・しているような?この偏芯ガイドがベアリングの表裏に仕込まれています。これは私の想像ですが、この偏芯ガイドを表裏位置を合わせて締めこむだけで、勝手に適切な押し付け力でローラーの位置が決まるのかな・・・と思っています。
詳しい方、ご教示くださいませ。
駆動機構(ステッピングモーターとタイミングベルト、台形ねじ)
先に書いた通り、3Dプリンタはステッピングモーターを正確な角度で回転させることでヘッドX軸、Y軸、Z軸に自由に動かします。
そしてX軸とY軸がタイミングベルト、Z軸が台形ねじでモーターの回転を直動に変更します。
まずX軸の駆動機構を見てみます。門型フレームを上下する水平のフレーム、左側に鎮座しています。
ステッピングモーター本体は裏側に装着されていて4つのキャップボルトで取り付けられています。このボルト穴が長穴加工されており、キャップボルトを緩めてステッピングモーターを左右にずらすことによりタイミングベルトのテンションを調整することができます。このタイミングベルトのテンション「だけ」で、位置決めの精度を保つ仕組みになっています。
このワッシャは私が追加したものです。ET4の数少ないクレームポイントがココ。個体差なのかもしれませんが、緑のベースプレートにキャップボルトの頭が食いついて跡がついちゃってます。少しずらして締め付けようとしてもボルトがずれてその跡にハマるため、微妙な調整ができません。ワッシャを追加することで回避可能です。
Y軸の駆動機構とステッピングモーターは、本体に内蔵されています。場所は本体ボックス中央右側。
こちらもステッピングモーターの取り付けキャップボルトを緩めて、ステッピングモーターをずらすことでタイミングベルトのテンションを張る仕組み。
こちらのキャップボルトはベースプレートに食い込んでいませんでした。
このタイミングベルトによる位置決めはそこそこ優秀で、一度張ってしまえばそうそう緩むものではありません。
最後にZ軸の駆動機構。これは門型フレーム左側の背面です。
前述のとおり、Z軸はタイミングベルトではなく台形ねじが使用されています。これはそれなりにプリンタヘッドの重量があるために、よりたわみのない(というよりたわみゼロの)台形ねじを使用していると推察されます。カップリングはリジッド。いいのかなあ。
台形ねじはピッチ4mmの2条ネジ。
意外と荒いですね。ボールねじやピンと張ったタイミングベルトと異なり必ずバックラッシュは存在するはずなのですが、常に重力で下側に与圧が掛かっているため、問題はないのでしょう。エンドミルやドリルと違ってプリンタヘッドが跳ねることはほぼないですから。
CNCフライス盤を触った方なら、なんと簡単な仕組みか!と絶句するところですがこのレベルで十分なのです。これも3Dプリンタの面白さ(?)
ベッドとレベリング調整機能(単なるネジ)
ベッドはヒーターがついています。そして、レベリング(水平度)調整機能であるネジとそのノブが四隅についています。
今までご説明した通り、門型3DプリンタはX軸、Y軸、Z軸それぞれ独立した駆動方法によりプリンタヘッドを動かします(デルタ型はもっと複雑)。従ってX軸とY軸方向にヘッドが動くときは、その動きとベッドの平行度が極めて重要です。
手動でレベリング調整を行うときはベッドの下にある黒いノブを回すことでベッドの高さを変えることができます(追って手順は説明します)。一度合わせたらそうそう狂うことはないので、私は写真のようにホワイトマーカーでしるしをつけています。
ベッドは3層構造であることがわかりますね。
上から
- ラバーパッド(黒)
- ガラス(透明)
- ヒーター機構(白)
に分かれており、ガラスとヒーター機構の間では取りはずしができます。ラバーはガラスに粘着剤でくっつけて使用します。
純正のクリップは付け外しが難しい(固い、クリアランス小さい)ので、いわゆるダブルクリップを使用しています。これはお勧めです。大きい造形を行ったときに、いったん立体物をラバーパッドとガラスごと本体から外したほうが作業しやすいからですね。
フィラメント切れ検出機構とフィラメント送り出し機構
先ほど画像をご覧に入れたX軸駆動部上面に、フィラメント切れ検出機構とフィラメント送り出し機構を見ることができます(画像は背面から撮影)。
右側の赤黒のコードがつながっているのがフィラメント切れ検出機構です。
フィラメント(赤い線状のもの)はマシン上部のリールから繰り出され、このフィラメント切れ検出機構を通過して左の薄い黒いユニット、フィラメント送り出し機構に入ります。
フィラメント切れ検出機構にはセンサーが取り付けられており、フィラメントがなくなるとこのセンサーが反応、印刷を止めてくれます。
フィラメント送り出し機構はギアのような歯がついた真鍮製のローラーで、このローラーが回転することで必要量のフィラメントを送り出します。印刷中はこのギアが回転し、ヘッドが空中を移動しているような印刷をしないときにはギアは停止してフィラメントの供給を止めてくれます。
なかなか賢いです。しかしまあ、こんな鉄板をプレスで曲げたようなフレームにうまくいろいろな機構を収めているものだとホント感心します。
原点スイッチ
3Dプリンタが印刷を行うときには、XYZそれぞれの軸の原点(ホームポジション)を機械的に確認します。
この時に動作するのが原点スイッチ。このスイッチはX軸とY軸に装備されています。
印刷を開始すると初期動作としていったんテーブルが奥に、ヘッドは左に移動します。そしてこの原点スイッチに触ったらそこをホームポジションとして位置計測を行います。
ちなみにZ軸の原点スイッチは存在せず、プリンタヘッドにあったセンサーが代替しています。
その状態で印刷をするとテーブルが初期動作をした際に原点スイッチに当たる前に保護チューブに衝突、ステッピングモーターが空回りしてガガガ・・・と凄まじい音がします!
この音がでたら原点スイッチの状態、そして保護チューブ取り外し忘れをチェック!
タッチパネル
最後にご紹介するのはタッチパネル。
ET4をはじめとした門型・・・じゃなくても、たいていの3Dプリンタは全面の目立つところにタッチパネルが装着されています。
幅は5cm程度。大きくはありませんがまあ必要十分です。
このパネルにはいろいろな情報や操作ボタンが表示されます。
これが電源投入後に表示される初期画面。
- 印刷する
- 準備する
- 設定
を選ぶことができます。言語選択可能です。
印刷する、を選択するとこの画面が表示されます。
マイクロSCカードに保存した、印刷可能なファイルが一覧表示されます。右側の上下ボタンでファイルを選択し、OKをタッチすると印刷が開始されます。
準備する、を選択すると表示される画面。
画面上部に表示されているように
- レベリング(自動・手動レベリング)
- フィラLD(フィラメントのロード(挿入)・リロード(取り外し)
- 予熱(プリンタノズルとベッドの予熱)
を行うことができます。今表示されているのは予熱画面で、プリンタノズルの温度、ベッドの予熱温度をそれぞれ別に設定できます。さらに予熱時間も選択できます。左の温度が実際の温度、右の温度が目標温度、プログレスバーが予熱状況を示します。
これらの機能がない格安3Dプリンタ(1万円前後)を「初心者向き」と紹介している人、本気ですか?とか暴言を吐いちゃったり。
標準3DプリンタET4、全貌を把握して頂けましたか?
以上で「標準3Dプリンタ(3万円前後)」の、最も標準的な構造である門型3DプリンタLABISTS 3DプリンターET4を、少々大きめの写真を使ってご紹介させて頂きました。
その全貌を把握して頂けましたでしょうか。
CNCフライス盤よりも軽く小さく、また取り扱いも恐れるほどではないことがご理解頂けたかと思います。
ぜひ、自分のお部屋に配置したときのことなどをリアルに想像して頂いて、購入検討のお助けになればと存じます。
お勧めです:私が使用している3Dプリンタはこちらです
私が使用している3Dプリンタはこれ、LABISTS 3DプリンターET4。
詳細は詳しく説明いたしますが、ポイントは以下の通り。
- 圧倒的な低価格:2万円台で購入可能(結構変動します、今は¥26,800
ですね。こまめにチェックを)
- 私が考える必要な機能:自動レベリング、フィラメント切れ検出機能、停電印刷継続機能、ヒードベッドが全てついている
- 家庭用としては最大級の加工範囲:220 x 220 x 250mm
これより安い1万円台の3Dプリンタもありますが、自動レベリングやフィラメント切れ検出機などの必須機能がないはずです。また印刷範囲も小さくてそれこそおもちゃしか作れません。
はじめは1万円のでいいかな、と思うかもしれませんがこのサイトをご覧になるような方であれば、このクラス(3万円未満)を選択して間違いはない、と私は断言しちゃいます!
とにかく、思いついた立体がパソコンとLABISTS 3DプリンターET4が手元にあるだけで、面倒な段取りもいらず油まみれにもならず切り粉もでず、クリーンに制作できるのは本当に楽しい!