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自作野郎ぜっ!管理者 kow_2002@hotmail.com

押し出しじゃシャックルは作れないんです(不可能ではないが・・・)

例えばあなたが戦車のプラモデルを作っているとしましょう。

 

それも超精密、価格も比較的安価な日本が誇るタミヤの戦車じゃなくて、海外製のプラモデルだったら。

 

今私が手掛けているイタラエリの1/72ヤークトパンター。全体的なスタイルはまずます良好ですが、細かいパーツが残念なことに省略されてしまっています。その代表的なものがシャックル。

 

タミヤのパンターなら問題なく精密にパーツ化されてるのですが・・・。

 

タミヤのヤークトパンター

 

タミヤさんのパンターの箱絵をお借りしました。この青丸部分のパーツがシャックルです。

 

イタラエリの1/72ヤークトパンターのキットではこのパーツが大胆にキャンセルされています。部品そのものがないのです。せっかく光造形方式の3Dプリンタという神器を手に入れたのですから、自作してみましょう。

 

いつも通りFusion360で作図、と行きたいところですがこのように曲がった棒で構成されているパーツを作成するためには、まだご説明していないテクニックが必要です。それが

 

  • パイプ
  • ロフト

 

です。これを覚えると作図の自由度がかなり高くなります。ぜひマスターしちゃいましょう。

 

ちなみに、強引に押し出しとフィレット(角のR取り)を使用してもこういう形状のものを作ることはできます。自分がやりやすいほうで作図を行えばよいと思う次第です。

シャックルの基本形となるU字型の線を引く

まず、シャックルの基本形となるU字型の線を引きます。

 

これもいろいろなやり方がありますが、ここでは

 

  • 長方形
  • 三接線指定の円
  • トリミング
  • オフセット

 

を使用してみましょう。

 

まず、シャックルの内面幅である0.9mmに短辺を合わせた長方形を描きます。ちなみになぜ0.9mmかといえば、このシャックルがはまる板の幅が実測で0.9mmだったから、というだけの理由です。

 

長方形を描く

 

この長方形の左側に内接する円を描きます。

 

それには、プルダウンメニューの「円」を選択し、そのサブメニューにある「三接線指定の円」を選択します。その後、内接させたい長方形の円(図中の赤丸部分)をちょん、ちょん、ちょんとクリックすると・・・

 

三接線指定の円を描く

 

このように、きれいに長方形に内接する円を描くことができます。

 

三接線指定の円を描く

 

あとは簡単、トリミングいらない線を消します。ショートカットのハサミアイコンをクリックし、いらない線をクリックするだけです。

 

いらない線をトリミングで消す

 

これで、シャックルの内径を示す図形を描くことができました。

 

次に、シャックルを形成する丸棒の中心線を描きます。

 

これをしないと次で行う「パイプ」が使用できません。

 

今回、直感で丸棒の太さを0.5mmにしたいので、その半分、0.25mmだけこの図形を外側に大きく広げる必要があります。これもいくつかの方法がありますが、「オフセット」を使用すると便利です。

 

「作成」ショートカットから「オフセット」のアイコンをクリックし、次に今回作成した左が丸くなっている長方形の「線上」のどこか(どこでもよい)をクリックします。

 

オフセットのサブウィンドウが右側に表示されますので、

 

オフセットの位置

 

に0.25mm(場合によっては-0.25mm、このプラスマイナスがよくわかっていません・・・実際に掛かれる予測線を見て決めてください)を入力、OKをクリックします。

 

オフセットで一回り大きい線を描く

 

このように、0.25mm大きい線を描くことができました。

 

今回描きたい図形は「U字型の線」ですので、

 

  • 内側の図形
  • 右側の短辺

 

は不要ですから、またトリミングで消してしまいましょう。

 

これで目的のU字型の線を描くことができました。

 

完成したU字型の線分

 

スケッチを終了させます。

パイプで線を丸棒に変える

ホームポジションやフィットを使用し、斜め上から見たU字型の線です。

 

斜め上から見たU字型の線

 

この線を丸棒に変えるのが「パイプ」です。

 

やり方は簡単、「作成」プルダウンから「パイプ」を選択し、先ほど描いたU字型の線分を選択します。

 

画面右の「パイプ」サブメニューの「断面サイズ」に0.5mmと入力、OKをクリックするとシャックルのU字部分が作成されました。

 

シャックルのU字部分の完成

 

ちなみに画面右の「パイプ」サブメニューを操作することで今回のような丸棒だけではなく、四角棒、三角棒をつくることもできます。
また、「操作」を選択することで新たにボディを作ることもできますし、切り取ることもできます。
この機能を駆使することで、平面に溝を入れることもできます(これはまた必要が出てきたら解説します)。

軸受け部を押し出しとフィレットで作る

シャックルの要(?)のU字部分ができましたので、軸受け部を作ります。

 

これは今までに説明した押し出しを使用すれば作ることができます。U字部を上から見えるように表示角を修正、その面でスケッチを作成し、2つ長方形を描きます。

 

軸受け部を描く

 

この長方形を上下に押し出せばこの通り。

 

軸受け部を押し出す

 

この際、押し出しのサブウィンドウで「方向」を「対象」とすることで、上下に同時に押し出しを行うことができます。

 

上下対象に押し出す

 

軸受け部を丸めてかつ、中心となる軸を作るために、今まで作成したシャックルを横から見た位置に移動し、またここにスケッチを作成します。

 

丸めるための半円を、先に説明した「三接線指定の円」で描き、その同心円として軸を描きます。

 

軸受け部のスケッチ

 

まあ、この角の丸めを「フィレット」で行ってもよいのですがここでは「押し出し」で丸めることにしましょう。

 

不要な部分を「切り取り」の押し出しで除去します。

 

切り取りで押し出す

 

あとは得意のフィレットで角を丸めれば基本形は完成です。ただし、U字側の角は丸めないで残しておきます。ここは次項で説明する「ロフト」のベースとなりますから。

 

軸受け部の基本形完成

 

こんな感じで軸受け部は完成!

ロフトでU字部と軸受け部を繋ぐ

ロフト。

 

これもFusion360といいますか3DCADで使える非常に便利なテクニックです。

 

これは、2つの丸や四角など「異なる形状の面」の間をつなぎ、立体的な形状が作れる機能です。押し出しと動作は似ていますが、「異なる形状の面」をうまいこと繋いでくれるため押し出しよりも複雑なことが容易にできてしまいます。

 

やってみましょう・・・なのですが、「異なる形状の面」が2つ必要となります。

 

1つは先ほど軸受け部を作ったときに「角を丸めなかった」面を使用しますが、もう一つ面を作らなければなりません。新たにスケッチを描いてもいいのですが、ここでは「ボディの分割」を使用してみます。

 

まず、今まで作成した立体を横から見た方向を正面としたスケッチを作成し、線を1本描きます。

 

ボディ分割の線を描く

 

そしてショートカットから「ボディの分割」を選択します。

 

ボディ分割を選択

 

画面右の詳細ウィンドウで「分割するボディ」に今まで作成した立体を、「分割ツール」に先ほど引いた線を選択して・・・

 

分割ツールを選択

 

分割面を示す赤い面が表示されます、この方向が正しいことを確認してOKをクリックします。

 

そうすると今まで左のツリーには1つしかボディがなかったのですが、3つに増えます。一つずつ選択すると以下のようにボディが3分割されたことがわかります。

 

3つに分割されたボディ

 

3つに分割されたボディ

 

3つに分割されたボディ

 

ただ、今回はボディを分割することが目的ではありません

 

ボディを分割することで、シャックルのU字部分の途中に面(断面)を作りたかったのです。

 

ここに2つの断面として円(水色の線)が作られていることがわかります。

 

ボディ分割により生成された面

 

この面をロフトで使用します。

 

ロフトを行う前に不要部分を削除してしまいます。下図の赤丸部分をクリックし、DELキーを押すことで削除できます。

 

不要部分の選択

 

不要部分の削除

 

では、ロフトを実行します。渋谷に行く必要はなく、「作図」プルダウンから「ロフト」を選択します。

 

ロフト機能の選択

 

画面右の詳細ウィンドウで、

 

  • ボディ分割で作成した円
  • 軸受け部でフィレットを行わず角を残した面

 

を選択します。すると、この2つの面を繋ぐ立体が「いい感じ」に生成されます。うーん、便利な機能ですねえ。

 

ロフト機能の実行

 

残ったもう片方もロフトしちゃいます。

 

ロフト機能の実行

 

こんな感じで立体作図できました。あともう一息。

過去に書いたスケッチを呼び出し、軸を作る

画面の左側のツリーから、先ほど軸受け部を丸めるときに書いたスケッチを探します。

 

見つかったら「目のマークをクリックし、スケッチの表示」を行います。

 

過去に書いたスケッチの再表示

 

描いておいた軸の円を使って押し出し、軸を作ります。

 

今回は板に取り付けるために真ん中の軸は作成していませんが、それはお好みでどうぞ。

 

軸を作れば、シャックル立体図作成は完成です!

 

シャックルの立体図完成

実際に3Dプリンタで印刷してみる

せっかくFusion360でシャックルを描いたのですから、印刷してみましょう。

 

隙間寸法0.9mm、U字部太さ0.5mmという極小サイズですがキレイに印刷することができました。

 

シャックルの印刷物

 

信じられないすさまじい精度!

 

このサイズで、真鍮棒とプラバンで同じものを自作できるかと言われたら、私のテクニックでは不可能です。それも複数作るなんて・・・。

 

言うまでもありませんが3Dプリンタであれば、データさえあれば何個でも量産できちゃいます(欲しい人います?)。

 

実際に1/72のヤークトパンターに組付けた図がこれ。

 

シャックルの印刷物を付けてみた

 

いい感じで精密度が上がっていることがお分かりになるかと。

 

こんなことが個人レベルでできちゃうんですねえ・・・恐ろしい時代になりました・・・

まとめ

1/72ヤークトパンター

今回、押し出しとは異なったテクニック

 

  • パイプ
  • ロフト

 

を説明しつつ、押し出しでは作りにくい立体図を描いてみました。

 

とはいえ、先にも書きましたが押し出しとフィレットでも工夫をすれば同じようなものを描くことは十分可能です。3DCADは、過程はともかく最終的にイメージした立体図を描くことが目的ですからその手段は自由、自分が得意なやり方を選択すればよいものです。

 

どちらかといえば、「機能を覚える」ことよりも「知っている機能でイメージしたものをどう作るか?」を想像できる力が要求されると思います、それを身に着けるためにはやはり手を動かしてみることが大切です。

 

なにしろFusion360は個人使用なら料金は不要です。どんどんトライしてみましょう!


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