旋盤で丸棒を削ってみよう。
おかげさまで毎日多くの皆様にご覧頂いております。
加工依頼もたくさんのお問い合わせを頂きありがとうございます。ホント、サイト主冥利に尽きます!
今回のご依頼は、楽器のパーツ。なにやら、弦楽器?に差し込んで足にするそうな。穴のサイズは16mm。中央がストッパー上に30mmまで広げたいそうです。うーん、16mmの丸棒にリング状に切り出した30mmのわっかを圧入する?でもなんかそれってチープですよね。ここは一発、32mm丸棒、しかも贅沢に7075からの削り出しと行きましょう!
そして、最近の私のサイトを訪れて頂く方々の検索キーワードとして意外に多いのが「使い方」。今まではCNCやバイクカスタムといった、上級者・・・とは言いませんがある程度ディープな方向けの記事が多いこのサイト、初心者向きといってはおこがましいですが、「これから旋盤を使いたい」「持ってないけど雰囲気を味わいたい」といった方向けのコンテンツを増やしていきたいと思っています。
なにとぞよろしくお願いいたします。
さて、引っ張り強度がスチールを超えるという7075であっても、バンドソーで簡単に切断できます。こいつ硬いのに(から?)切削性は良好なんです。ただし腐食しやすいので通常はアルマイト加工をします。バイクのパーツとしては・・・個人的には、不要な強度だと思います。
使用しているバンドソーは「REXOS BS-10K」。すでに絶版ですが、同系モデルは手に入るはずです。
スクロールチャック。
まあ、旋盤といえば
・材料掴んで
・回して
・刃物あてりゃ
削れるぜ、ってものですがその第一ステップ、材料を掴むのが「チャック」です。あなたが旋盤を買ったとしたら、必ず(たぶん)この「スクロールチャック」、またの名を「三つ爪チャック」が装着されているはずです。ということは、スクロールじゃないチャックや、三つ爪じゃないチャックももちろんあるのですがそれはまたの機会に。
上部に黒い棒が刺さっています、これはハンドルといい、これを刺してぐるぐる回すと3つの爪が広がったり、締まったりします。
この3つの爪を動かすための渦巻状の溝を切った板が内蔵されており、これが「スクロール」の語源だったりします。ハンドルを刺す穴は通常3つありますが、テクニシャンに言わせると
「常に同じ穴を使うべし」
だそうです。私?一番近い穴を使っちゃってます・・・
さて、我々が購入できるようなマイクロ旋盤の場合、通常装備されているスクロールチャックは80mm~100mmです。貫通穴は20mm以内ですし、掴める丸棒も直径25mm程度でしょう。
でも今回は32mm丸棒を使いたいのです。そんなときは?
爪を交換!
ハンドルをぐるぐる回し、爪を取り除きます。
そう、スクロールチャックの爪は取れるんです。
余談です。
スクロールチャックはハンドルを回すことですべての爪が同時に動く優れものです、そのまま丸棒を掴めば簡単にセンターが・・・ある程度は、でます。でも、しょせんは摺動部のある機械部品、少なからぬ遊びがあるため、スクロールチャックで掴んだだけでは0.1mm程度のフレが出てしまいます。
ある程度は
・スクロールチャックの取り付けボルトを緩め
・精度の高い丸棒を掴み
・ダイヤルゲージでフレを見ながらプラスチックハンマーで叩き
・センターが出たところで取り付けボルトを固定
することで、センターを出すことができます。私もこの方法で、0.05mm以下までフレを取り除いています。
でも、スクロールの語源となった渦巻板も完璧な精度が出ているわけではありません。20mmの丸棒を掴んだときはセンターが出ても、5mmの丸棒を掴んだときにセンターがでるとは限らないんです。
解決方法は
・材料を掴んだら一皮むく
・加工が終わるまで離さない
なのです。今回はもっとも太い箇所で30mmなのですが、あえて32mm丸棒を加工している理由はこれなのでした。
爪比較。内爪と外爪。
スクロールチャックには必ず
・内爪
・外爪
の2種類の爪がセットで付属しています。たまーに見かける、某オークションの中古品で「外爪なし」みたいなものがありますが、極力手を出さないことをお勧め致します。爪だけ手に入れるのは難しいのです。
さて、下が内爪、上が外爪。見ての通り内爪は内側が長くなっていて、外爪は外側が長くなっています。
使い分けは単純、細いものを削るときは内爪。太いものを削るときは外爪です。
交換は簡単です(ハンドル回して、今ついている爪を外して、付け替えてまたハンドル回すだけ)が、結構面倒です。
これで32mm丸棒を加えることができました。
外爪装着の図、です。
めでたくFL350Eでも32mmの丸棒を掴むことができました。
写真を撮るためにあえてこうしていますが、ハンドルを付けたまま手を放すことは禁止項目の一つです。このままスイッチを入れてハンドルすっ飛ばす事例は結構あります。
手のひらサイズとはいえ、鉄の塊ですからこれが顔にあたったらちょっと大変です。
あ、みなさん保護眼鏡は付けていますね?
セットOK。
右側はテールストックに回転センターを装着しました。
前後の送りをシビアにみるためにダイヤルゲージもセット。このあたりも、いずれご説明しますね。
今回狙う精度は0.02mmレベル。軸太さを15.95プラスマイナス0.02まで追い込みます。
ひたすら削っていきます。
ひたすら削り続けます。
2017や7075を削るとき、私は切り込みは小さく0.1~0.2mm程度にしています。動画の状況では0.1mm。送りはF300程度。
32mmを16mm近くまで削ります、8mm切る必要がありますから80往復!手送りではもうやってられませんね・・・。手送りだったら切り込みを0.5mmくらいにしてしまうかもしれません。
でも、剛性の低いマシンで削り面をビビらせず美しく仕上げるには
・小さな切り込みで
・何度も何度も送る
ことが、一番の近道なんです。
缶・・・ビール?
最終的にダイヤルゲージを駆使し、めでたく15.95mmへビシッと削り込みました。
さて材料をトンボ(ひっくり返す)してスクロールチャックに咥えます。せっかくピカピカに削った面をスクロールチャックで掴むと傷だらけになってしまう!
そんなときは缶ビールのカンをはさみで切り刻みます。これを丸棒に巻きつけてスクロールチャックで掴むと傷を防止できるって寸法です!
簡単なことですが、これも家庭の知恵?です。
トンボ&センター出し
材料をトンボします。
この状態でダイヤルゲージをあて、センターが出ているか否かを確認します。
もしこの状態でセンターが出ていない場合、先に説明した通りスクロールチャックの取り付けボルトを緩めプラハンで叩き、センターを出すのです。
地道な努力ですがこの積み重ねが作品に魂を吹き込みます。私はそう思うのです。
センターを出したら、先ほどと同じように残りを削り出しましょう!
完成は間近です。
完成です。
最後にミシンオイルに浸したペーパーを使用して
・600番
・800番
・1000番
で磨き上げます。旋盤のベッドをウエスで覆いペーパーの粒子を含んだ油がベッドを汚さないようにして、削り出したパーツを旋盤で回しながら磨くのです。
1000番で撫でれば十分な光沢となります。これ以上を望むと鏡面になっちゃいますし、その場合アルマイトを掛けないとすぐ傷が入っちゃいます。今回はこれで十分。
フランジを超えて軸に沿って走る一直線の反射光が、0.02mmレベルの精度を示しているわけです(笑
これにて完成、納品ですっ!